AMERICAN ACADEMY OF PEDIATRICS

             AMERICAN ACADEMY OF FAMILY PHYSICIANS

              Subcommittee on Management of Acute Otitis Media

CLINICAL PRACTICE GUIDELINE

                 Diagnosis and Management of Acute Otitis Media

米国小児科学会、米国家庭医学会

急性中耳炎診療小委員会

臨床診療ガイドライン

急性中耳炎の診断と治療

(日本語版)

 

概要

このエビデンスに基づいた臨床診療ガイドラインは生後2ヶ月〜12歳の合併症を伴わない急性中耳炎の初期治療に当たる臨床医に対して推奨されるものである。      

 American Academy of Pediatrics(AAP) and American Academy of Family Physicians(AAFP)はプライマリー・ケアー医と耳鼻咽喉科や疫学、感染症の分野の専門医を招集して委員会を設立した。この小委員会はHealthcare Research and QualityAHRQ and the Southern California Evidence-Based Practice CenterEPC)と協力して、急性中耳炎に関するエビデンスに基づいた論文の総合的な検討を行った。この委員会により整理されたエビデンスレポートやその他のデータに基づいて、診療ガイドライン推奨案を作成した。この診療ガイドラインは小児の急性中耳炎の適切な診断と初期治療に焦点を絞っている。

 ガイドラインはまず急性中耳炎の適切な定義を示し、次に痛みに対する治療をどうするか、初期観察とすべきか抗菌薬治療を行うべきか、抗菌薬選択、さらに予防法などを検討している。それぞれの判断はエビデンスの質の総合的な格付けや推奨の強さに基づいており、同時にエビデンスとして十分なデータが無いときは専門家の一致した意見を採用した。診療ガイドラインは委員会のメンバーによる綿密な検討を行った後に、協力を仰いだ機関により公的に認定された。

 この臨床診療ガイドラインは小児の急性中耳炎の治療に対する唯一の指針となることを意図していない。むしろ診断や治療方針の手がかりを提供することにより、プライマリー・ケア医をサポートするのが目的である。このガイドラインが急性中耳炎に罹患した全ての小児の臨床的判断や診療プロトコールを決めるわけではない。すなわち、このなかで紹介する推奨(Recommendation)が、急性中耳炎の治療に対する唯一のアプローチではないであろう。

 

 

はじめに

 急性中耳炎は米国において、小児に対して抗菌薬が処方される最も頻度の高い感染症である。したがって、急性中耳炎の診断と治療は小児の健康、医療費、抗菌薬の総使用量に対する極めて重要な因子となっている。しかもこの疾患は罹患中の休校や休職という社会的負担や間接的費用をももたらす。急性中耳炎に対する直接的な概算コストは1995年では196000万ドルであった。加えて間接的コストは102000万ドルだった。1990年の1年間で米国では約2500万人の急性中耳炎患者が診療所を訪れ、8091000つまり約2000万人の急性中耳炎患者に抗菌薬が処方された。2000年には急性中耳炎で訪れる患者は1600万人に減少したが、抗菌薬処方の割合は8021000で約1300万人に処方して、処方数はほぼ同じであった。各患者が抗菌薬治療を受けたときの医療費は10ドル〜100ドル以上までと幅広い。

 最近、合併症を伴わない急性中耳炎の小児に対して、抗菌薬治療の必要性の有無が盛んに議論されている。米国では急性中耳炎に対して抗菌薬を用いるのが一般的であったが、ヨーロッパのいくつかの国々では、急性中耳炎の治療は対症療法のみで、臨床症状が改善しないときのみ抗菌薬を用いている。臨床医にとって抗菌薬の選択は治療面での重要な鍵となっている。薬剤耐性菌の急増や抗菌薬処方による医療費の上昇により、医療社会や一般の人々が、抗菌薬の適切な使用に関して以前にも増して注目するようになった。薬剤耐性菌の急増により、急性中耳炎に対して広い抗菌スペクトラムをもつ、より高価な抗菌薬を使用する頻度が増加した。

 このガイドラインは合併症を伴わない急性中耳炎の自然経過と治療のエビデンスを評価し、小児科医、家庭医、診療助手(physician assistants)、看護師、救急医、耳鼻科医などを含むプライマリー・ケアー医のために、エビデンスに基づいた推奨治療法を提唱することが目的である。このガイドラインが目指すものは、生後2ヶ月〜12歳で急性中耳炎に関係しない全身徴候や症状が無く、合併症のない急性中耳炎の診断と治療である。さらにこのガイドラインは、急性中耳炎の自然経過へ影響を与えるような基礎疾患を有していない通常は健康な小児に対して適用される。ここで言う基礎疾患とは、口蓋裂などの解剖的奇形、ダウン症などの遺伝性疾患、免疫不全などの全身的異常、人工内耳埋め込み小児などを含む。また、本ガイドラインでは30日以内の急性中耳炎の臨床的再発例や慢性滲出性中耳炎が下地にある急性中耳炎は除いている。

 

方法

急性中耳炎治療の臨床診療ガイドラインを作成するため、AAPAAFPは急性中耳炎の治療に関して、プライマリー・ケアー医と各専門医からなる委員会を開催した。この委員会はプライマリー・ケアー小児科医および家庭医と、一般小児科、家庭医学、耳鼻咽喉科、疫学、感染症、医学情報などの専門家で構成された。すべての委員会メンバーはAAP Policy on Conflict of Interest and Voluntary Disclosureを検討し、委員会の決定事項に対して、どのような意見でも提案する機会が与えられた。

 AAPAAFPAHRQEPCと協力して、これらの診療ガイドラインの主なデータ源としてのエビデンスレポートを作成した。AHRQのエビデンスレポートにおける検討事項は、

@       急性中耳炎の定義

A       抗菌薬を用いなかった場合の急性中耳炎の自然経過

B       臨床的失敗を予防する抗菌薬の有効性

C       ある特定の抗菌薬レジメの相対的効果など

についてである。AHRQレポートは合併症を伴わない急性中耳炎に罹患した生後4週〜18歳の小児における初期治療の検討を行った。アウトカムは、48時間以内、37日、814日、15日〜3ヶ月、3ヶ月以上での徴候、症状の有無や抗菌薬の副作用などを含んでいる。EPCプロジェクトスタッフはMEDLINE(19661999.3)Cochrane Library(〜1999.3)、HealthSTAR19751999.3)、IPA19701999.3)、CINAHL19821999.3)、BIOSIS19701999.3)、EMBASE19801999.3)を検討した。さらに、学会議事録(Proceedings)、すでに出版された文献、レポート、ガイドラインの参照リストを検討することにより、追加論文が加えられた。治療に関する研究はランダム化比較試験のみとした。自然経過では前向き又は後向きの比較コホート研究も含まれた。最初に3461タイトルを検討対象とし、そのうち2701が除外され、760論文が検討された。最終的に72の英語論文と2つの他言語による論文が完全に検討された。論文の検討結果はエビデンステーブルに提示され、最終的なエビデンスレポートとして公表された。

 

 中耳炎の新しい文献は絶えず公表されている。AHRQによるsystematic reviewでは新しい文献を検討できなかったので、急性中耳炎治療小委員会のメンバーは20039月までに出版された論文を追加検討した。論文は方法論の質やその結果の重要性について検討された。AHRQレビューで使用された論文は、その質に関しても再度検討された。そして、より新しい論文の検討やAHRQエビデンスの再評価の後、小委員会の同意に基づいて最終的な結論が得られた。重要なことは、検討した論文の中には12歳以上の合併症を伴わない急性中耳炎の比較的少数のケースも含まれていることだった。したがって、小委員会はこのガイドラインの適応を生後2ヶ月〜12歳の小児に限っている。

 エビデンスに基づいたガイドライン作製方法においては、方針が認識され、評価され、さらにまとまっていることが必要であり、さらにエビデンスと推奨の間に明らかな関連があることが要求されている。エビデンスに基づいた推奨は、その推奨が実行されているとき予想される損益バランスとエビデンスの質を反映する。エビデンスに基づいた推奨のAAPの定義を表 1に示す。

 

 

1エビデンスに基づいた記載法に対するガイドラインの定義

 

記載

定義

意味

強い推奨
(Strong Recommendation)

ある種の活動に対する強い推奨とは推奨された方法の利益が明らかに損失を上回るとき(予想される損失が明らかに利益を上回ったときその行動に反対する強い推奨となる)、または、サポートするエビデンスの質がすばらしいとき。質の高いエビデンスが得られなくても予想される利益がその損失より明らかに大きいときには、強い推奨とされる場合がある。

臨床医は他の方法があるという明確で強い理論的根拠がなければ従うべき

推奨(Recommendation)

推奨は予想される利益が損失を越えるがエビデンスの質がそう高くないとき。また、質の高いエビデンスが得られなくても予想される利益がその損失より明らかに大きいときには、推奨とされる場合がある。          

臨床医は注意深く推奨に従うべきだが、新しい情報や患者の訴えに注意すべき

選択(Option)

選択はエビデンスの質が疑わしい、もしくは注意深く行われた研究がそれぞれの治療法に明らかな有意差を示さなかった場合である。

臨床医は自分の決定において選択を考慮すべきで、患者の要求は治療決定に重要な意味を有する

推奨しない
No Recommendation

適切なエビデンスが欠けており、予想される利益と損失が現在明らかでない。

臨床医は利益と損失について明らかなエビデンスの発表を待つべきである

 

 この診療ガイドラインの草案は、AAPAAFPにより選ばれた査読者、外郭団体、その他の分野で、小委員会により認められた専門家など多くの人々により、十分に検討された。小委員会のメンバーはそれぞれの専門の機関の代表者や委員会へ草案を配布し、その結果得られたコメントは小委員会により検討され、適切と判断された場合ガイドラインへ組み込まれた。

RECOMMENDATION 1 (推奨1)

 急性中耳炎を診断するために、診療医は急性発症の経過を把握し、中耳滲出液(MEE)の徴候を同定し、中耳炎症の徴候や症状の存在を評価すべきである。(推奨は観察研究(observation study)に基いており、また、リスクより利益が勝っていることを重要視している)(表2参照)

 

2 急性中耳炎の定義

急性中耳炎と診断するには

1)急性発症の経過と症状 

2)中耳貯留液の存在 

3)中耳炎症の徴候、症状の存在

 が求められる。

急性中耳炎の定義の要素は

1.最近の、通常突然に、中耳の炎症と貯留液による症状、徴候が発症する

                 AND 

2.中耳貯留液の存在を示す以下の所見が認められる

 a.鼓膜の膨隆

  b.鼓膜の動きが無い、または制限されている

 c.鼓膜を通して空気と貯留液の境界が見える

 d.耳漏がある

                 AND

3.以下に示す中耳の炎症による症状と徴候がある

 a.明らかな鼓膜の発赤がある

 b.明らかな耳痛がある(明らかに耳に由来する不快感があり、通常の活動や睡眠が妨げられている)

 

急性中耳炎に罹患している小児は通常、耳痛(乳幼児では耳をひっぱる)、乳児やヨチヨチ歩きの子供では不機嫌、耳漏、そして発熱といった徴候、症状の急性発症の経過を示す。これらの所見、特に耳漏以外は非特異的であり、しばしば上気道の合併症を伴わないウイルス感染と同様の症状を示す。急性上気道感染疾患で診療医を訪れた354児の前向きな研究では、発熱、耳痛、泣き止まないといった症状は、急性中耳炎の90%に同様の症状が存在した。しかし、これらの症状は急性中耳炎に罹患していない子供の72%にも見られた。ウイルスによる上気道感染症のその他の症状、例えば、咳、鼻水、鼻閉はしばしば急性中耳炎に先行もしくは随伴し、非特異的である。従って特に年齢の低い子供では急性中耳炎の存在を見つけにくい。

 中耳貯留液の存在は普通気密耳鏡検査(pneumatic otoscopy)を行うことにより確定するが、ティンパノメトリーや聴覚反射検査(acoustic reflectometry)を用いても検出できる。中耳貯留液はまた、直接鼓膜を穿刺する(tympanocentasis)ことにより、あるいは、鼓膜穿孔の結果外耳道に耳漏が出ている場合に証明される。

 中耳貯留液や炎症変化を伴った鼓膜を視診することは、診断を確実にするために必要である。鼓膜を適切に見るには鼓膜を見えなくしている耳垢を除去し、適切に光で照らすことが必要である。気密耳鏡検査のためには適切な形と半径の耳鏡を選ぶべきで、これで外耳道をぴったりと塞ぐ必要がある。適切な検査を行うためには子供を押さえつける事も必要である。

 急性中耳炎に関連する中耳貯留液や炎症を示す所見が耳鏡検査でみられたら、ほぼ診断は確定である。鼓膜の膨隆(fullness or bulging)はしばしば認められ、これは中耳貯留液を強く疑わせる所見である。鼓膜の色と動きの所見を合わせたとき、膨隆は最も強く急性中耳炎を疑わせる所見である。気密耳鏡検査で鼓膜の動きが減少もしくは消失していれば中耳貯留液があるという強い証拠となる。鼓膜の不透明や混濁(opacification or cloudiness)は瘢痕によるもの以外では、確定診断となる所見であり、鼓膜の浮腫を示すものである。炎症による鼓膜の発赤(redness)も存在する場合が多いが、啼泣や高熱により誘発されたピンクの発赤と区別する必要がある。この場合には普通子供が静かにしているときには、発赤は軽減し、より落ち着いた所見でなることにより鑑別できる。水疱性鼓膜炎(bullous myringitis)では鼓膜に水疱を見ることがある。中耳貯留液があるかどうか分かりにくいとき、ティンパノメトリーや聴力反射が診断の手助けになる。

 

 開業医にとって大きな問題は滲出性中耳炎(OME)と急性中耳炎(AOM)の鑑別である。滲出性中耳炎は急性中耳炎より頻度が高い。滲出性中耳炎は恐らくウイルス性上気道感染症を伴っている場合が多く、急性中耳炎の序曲かもしくはその後遺症である。滲出性中耳炎が誤って急性中耳炎と診断されると抗菌薬が不必要に処方されることになる。診療医は耳管の機能障害や鼓膜の陥凹によって引き起こされる中耳不快感(middle-ear discomfort)や慢性に存在する中耳貯留液の状態にウイルス性急性上気道感染症が重複感染した場合などで、急性中耳炎という疑陽性診断をするのを避けるよう努力すべきである。

 急性中耳炎の診断は特に乳幼児や低年齢児ではしばしば不確定に診断される。その主な理由は外耳道の耳垢を十分に除去できなかったり、上手く気密耳鏡検査やティンパノメトリーを施行できないといったことである。急性中耳炎の不確定診断は中耳貯留液の存在を確定できないことにより最も起こりうる。聴覚反射は診断の助けになりうる。なぜならそれは外耳道を塞ぐ必要がなく耳垢があっても、少しでも外耳道が開いていれば中耳貯留液を検出できるからである。中耳貯留液の存在が疑わしい、もしくは不確定である場合、急性中耳炎の診断は考慮されるべきであるが確定診断とはならない。臨床医により滲出性中耳炎や健常な耳と、急性中耳炎を鑑別するためにあらゆる機器を用い努力しても、不確定診断になってしまう症例も少なからず存在する。不確定診断の頻度を減らすために、臨床医の診断能力の向上のための努力を惜しむべきではない。理想的には、小児の耳に対する適切な検査の授業は医学部での最初の小児科ローテーションに始まり、卒後研修まで続けられることである。医学教育の継続により気密耳鏡検査の使い方、重要性を強調し臨床医を再トレーニングするべきである。診断精度を高めることを含めて、小児科診療の日頃の研鑽も診療確定ステップ(decision making)に組み込まれている。

 急性中耳炎の確定診断には3つのcriteriaに合致する必要がある。

@     急性発症、

A     中耳滲出液の存在、

B     中耳の炎症に伴う徴候および症状の存在

である。診療医はとくに中耳貯留液存在の評価をもっとも重要な診断戦略とすべきで、中耳貯留液の存在を治療決定の際の確定診断根拠として考えるべきである。診断医は初期の急性中耳炎の治療の際、その診断がどのくらい確実か、両親あるいは保護者に話すのが望ましい。

 

RECOMMNENDATION 2 (推奨 2)

 急性中耳炎の治療において、疼痛管理は重要である。もし痛みがあるなら、診療医は疼痛を和らげる治療を勧めるべきである。(ここでの強い推奨は、ある程度の制限を伴い、さらに利益がリスクを上回るというランダム化比較試験に基づいている。)

 

 急性中耳炎に罹患すると多くの場合疼痛を伴っている。疼痛は急性中耳炎の症状として不可欠なものであるが、診療医はしばしば耳痛を随伴症状としてとらえ、直接的な関心を示さないことが多い。AAPは臨床医を手助けするために中耳炎における一連の疼痛について『幼児、子供、青年期の急性疼痛の評価と治療』を出版した。特に急性中耳炎の最初の24時間では、痛みの治療は抗菌薬の使用に関わらず重要視されている。

 耳痛に対し様々な治療が行われてきたが、どれも十分に研究されていない。診療医は利得と損失の考えに基づいて治療を選ぶべきだが、可能なら両親もしくは扶養者と本人の希望を取り入れてもよい。(表3


3急性中耳炎の耳痛に対する治療

治療法

コメント

アセトアミノフェン(acetaminophen)、イブプロフェン(ibuprofen)

弱〜中の痛みに効果的。すぐに使える。急性中耳炎の痛みの治療に最も大切。

家庭治療(直接効果を示すcontrolled studyなし)
気晴らし

加温・冷却

オイル

恐らく効果は限られている

局所治療

ベンゾカイン(Auralgan, Americaine Otic)

自然療法薬(Otikon Otic Solution)

5歳以上でわずかながらアセトアミノフェンより効果あり

6歳以上でametocaine/phenazone drops (Anaesthetic)に匹敵する

ホメオパシック療法

疼痛に効果があるという直接的なcontrolled studyはない

コデインやその他の麻薬鎮痛剤

中〜強度の痛みに効果あり。処方すると呼吸抑制や精神状態の変化、胃腸障害、便秘を起こしうる

鼓膜穿刺、鼓膜切開

技術が必要で、かなりのリスクがある

 

RECOMMNENDATION 3A (推奨 3A

軽症中耳炎患児に対して抗菌薬を使用しない経過観察の選択(オプション)は、診断の確実性、年齢、重症度、フォローの確かさが保証されている患児に限って適応となる。(制限付きランダム化比較試験に基づき、利得と危険性のバランスを保持したオプションである)

 

中耳炎に対する「経過観察オプション」とは、特定の患児に対して48時間から72時間、抗菌薬の治療を延期し、対症療法のみを行うこと、である。経過観察するか治療するかの判断は、患児の年齢、診断の確実性、重症度による。初期治療として抗菌薬を用いず、経過観察を行うとすれば、両親か保護者が臨床医と連絡を緊密にとれることが前提となる。また、患児の病状を適切に再評価できるシステムが必要である。さらに必要時には、両親や保護者が容易に医療サービスを受けられなければならない。

以上の条件にあてはまらない場合、このオプションは初診時に重症の疾患を持たない6ヶ月から2歳の比較的健康な小児で、確定診断が得られない患児と、初診時に症状が軽いか、診断のつかなかった2歳以上の患児に限定すべきである。この適応に沿って、経過観察すれば、抗菌薬を使わずに患児が病状を改善できる可能性がある。2歳以下の患児で、注意深く経過を追うのが難しくなった場合や、6ヶ月以下の患児で重度の感染が見られた場合、直ちに抗菌薬治療に切り替えるかどうかを判断する。

結論として委員会は、診断の確実性とこれらの臨床的考察を合わせた、年齢別アプローチを推奨する(表4)。

 

4 急性中耳炎患児の初期治療として、抗菌薬か経過観察を選択する基準

 

年齢

確定診断

不確かな診断

6ヶ月未満

抗菌薬治療

抗菌薬治療

6ヶ月以上2歳未満

抗菌薬治療

重症の場合は抗菌薬治療

重症でなければ経過観察オプション

2歳以上

重症の場合は抗菌薬治療

重症でなければ経過観察オプション

経過観察オプション

New York State Department of Health and the New York Region Otitis Project Committee.より許可をいただき改訂した。

経過観察は、フォローが確実で、症状が遷延或いは増悪時には、抗菌薬治療を開始できるときに適応されるオプションである。重症でないとは、耳痛が軽度で24時間以内に39度未満の発熱がみられるもの。重症とは中等度から重度の耳痛があるか、39度以上の発熱があるもの。

急性中耳炎の確定診断とは、1)急性発症2)中耳貯留液の所見3)中耳の炎症を示す所見や症状を認めるもの、の3つの基準を全て満たすものをさす。

 

過去30年間の急性中耳炎とプラセボとの比較試験によると、抗菌薬を用いなくても、ほとんどの子供は経過良好で、続発症を併発していない。抗菌薬が処方された患児一人が利益をうるには、7人から20人の患児が必要である。プラセボを投与されても抗菌薬を投与されても、24時間以内に61%の子供の症状が緩和した。7日以内におよそ、75%の子供が症状の寛解をみとめている。AHRQのevidence report meta-analysisでは、初診時にプラセボを処方されるか、経過観察とした場合に比較して、アンピシリンかアモキシシリンが処方されたときは、臨床的失敗例の比率は12.3%低下したという(治療を必要とした症例数は8)。

1990年にオランダ一般診療医学会(the Dutch College of General Practitioners)はAOM治療ガイドラインを提唱したが、24時間(6ヶ月から24ヶ月の患児)か72時間(24ヶ月以上の患児)は抗菌薬なしで対症療法のみ行い、再評価の際に改善が一切見られなければ、抗菌薬を追加投与するというものであった。この初期のガイドラインに対する1999年の改訂では、生後6ヶ月以下のグループを特別に考慮すべきものとはみなしていなかった。

このガイドラインはオランダで広く使われたが、他の国で使用するには、医療機関を受診出来るかどうかと、子供の経過を適切に見守る両親や保護者の存在を考慮に入れなければならなかった。オランダのガイドラインでAOMに続いて合併症が生じたかどうかの疑問を解決する対照試験はないが、van Buchemらは、対症療法のみを施された2歳以上のオランダの子供4860人の内、たった2.7%が持続性の発熱、疼痛、3−4日続く耳漏で規定される重症AOMを生じたとしている。2症例だけが乳突洞炎に進展した。乳突洞炎の内、1例は初診時にも存在しており、もう1例は1週以内に進展し、経口抗菌薬で早期に改善した。

対症療法のみによる経過観察について、ランダム化比較試験はほとんど施行されていない。開業医を対象とした英国での最近のランダム化比較試験では、6ヶ月から10歳までの患児に対して、抗菌薬をすぐに使用する群と72時間後まで延期する群で比較がなされた。投与を延期した群のうち、76%は抗菌薬を必要としなかった。また、その70%は3日以内に症状が緩和した一方で、抗菌薬をすぐに投与した群では86%が症状の緩和をみとめている。抗菌薬を直ちに使用する群では、罹患期間が1日短縮すること、アセトアミノフェンの投与量が1日当たり半さじ減る成績が得られたが、学校を欠席すること、疼痛、愁訴スコア(distress score)には両者に有意差はなかった。第1病日に発熱、嘔吐を伴った患児では、直ちに抗菌薬を投与された群で、21%が第3病日には愁訴をあまり訴えなくなった。発熱・嘔吐を伴わない患児では、直ちに抗菌薬を投与してもたった4%しか愁訴が減らなかった。しかしこの研究では、AOMの診断に不正確な基準を用いており、治療群に対して低容量のアモキシシリン(体重にかかわらずすべての患児に、1回125mgを1日3回投与)しか投与していないため、エビデンスとしての有用性は限定される。

抗菌薬を用いない治療で治癒が期待できるかどうかは、症状の重症度と、初診時の症状による。Kaleidaらは、発熱の程度、スコアリングシステム(罹患期間、疼痛あるいは明らかな愁訴の重症度に基づいている)、そして、両親の評価で、患者を重症群と非重症群に分けた。非重症群では、初期治療の失敗は、アモキシシリンの代わりにプラセボを投与された子供の3.8%強に生じた。重症群では、プラセボ投与と鼓膜切開の群での初期治療失敗率が23.5%であるのに対して、アモキシシリン単独投与群での失敗率は9.6%であった(13.9%の相違)。低年齢児の予後の悪さを報告している研究者は多い。18ヶ月以下の子供では、それ以上の年齢の子供に比べて、アモキシシリン耐性肺炎球菌株の検出率が高く、これは2歳以下の子供の初期治療失敗例が増加していることと関連している。Kaleidaらの研究では、プラセボ群のうち、2歳以下での初期治療失敗率(9.8%)が、2歳以上でのもの(5.5%)より高いと指摘している。

AOMに対する画一的な抗菌薬治療が、この”抗菌薬時代”においては、乳突洞炎の発生を減少させた主な原因とされることが多い。”前抗菌薬時代”にありふれた疾患であった乳突洞炎は、1950年代までに劇的に減少した。その復活を示唆する知見を主張する者もあるようだが、公表されたデータに基づいているわけではない

AHRQのAOMに対するエビデンスレポートは、子供が頻繁にフォローされており、初期治療で改善が見られなかった子供に対し、抗菌薬が開始されているという条件で、乳突洞炎は増加していないと結論付けた。6つのランダム化比較試験と2つのコホート研究では、初診時に抗菌薬投与を受けた患児での乳突洞炎の発病率(0.59%)とプラセボでの経過観察とした患児での発病率(0.17%)との間には有意差はなかったと報告している(P=0.212)。しかし、低年齢患児や重症患児を除外しているため、これらの試験の正当性は少し疑問視される。

最近報告された小児乳突洞炎の症例では、急性乳突洞炎が最もよく起こりうるのは幼児や低年齢児であり、先行する中耳疾患なしに、AOMの主症状が出現する可能性がある。AOMに対する画一的な抗菌薬治療は、乳突洞炎や他の合併症の絶対的な予防とはならない。というのも、その大部分(36−87%)は抗菌薬の先行投与を受けていたからである。

Van Zuijlenは14歳以下の急性乳突洞炎の発病率の違いを、1991−1998年にわたり国別で比較した。オランダ、ノルウェイ、デンマークなど、AOMと診断されても必ずしも抗菌薬を投与しない国のほうが、英国、カナダ、オーストラリア、米国といった、96%以上の症例に抗菌薬が投与される国よりも、急性乳突洞炎の発病率が高かった。さらに、ノルウェイやデンマークでは抗菌薬の初期投与が、オランダの2倍以上であるにもかかわらず、乳突洞炎の罹患率はその3国で同程度である。

このように最近のデータでは、中耳炎が抗菌薬を用いず対症療法のみで治療されても、乳突洞炎を子供に惹起する危険が増加しないことが指摘されている。臨床医は抗菌薬治療によって、症状が軽微となり、診断が遅れ、乳突洞炎の徴候や症状を隠す(maskする)可能性があることを念頭に置くべきである。特に、39度以上の発熱のある患児には、菌血症がAOMに併発する可能性があるが、中耳炎に対する画一的な抗菌薬治療が、細菌性髄膜炎を予防するという証拠はほとんどない。抗菌薬治療を受けていない4860人のAOM患児に対する研究では、細菌性髄膜炎は1例も見られなかった。しかし、6-24ヶ月の240名の子供に対する研究では、プラセボ群の1例が髄膜炎を続発したと診断されている。他の報告によると、細菌性髄膜炎の子供では、入院前にAOMの抗菌薬治療を受けたかどうかに関係なく、血液培養の陽性率は同等(77%と78%)であるという。このように乳突洞炎に関しては、AOM患児の髄膜炎の発病率は、AOMに対する抗菌薬の初期治療には影響されないであろう。

蛋白結合型莢膜多糖体ワクチンprotein-polysaccharide conjugate vaccine (PPV7)の導入以来、肺炎球菌の重症感染症は減少した。2歳以下の患児では1998年から1999年、2001年までに、69%の減少が見られた。この期間における、ワクチンと同じ血清型肺炎球菌による重症感染症の減少は78%であった。しかしワクチンが肺炎球菌の重症感染症にどのように影響しているかは、まだ明らかにされていない。

Dagan and McCrackenによると、異なる抗菌薬同士の効果比較や、プラセボと抗菌薬治療との効果を比較した研究では、研究の成果に影響する重大なデザイン上の欠陥がしばしば見られるという。方法論的考察には、記載基準、サンプル量、診断基準、投与量のレジュメ、結果の定義とその時期の基準、症状の重症度、民族、免疫機構、服薬コンプライアンス、病原体の毒性や耐性度、抗菌薬の投与期間、気道感染の有無が含まれる。中耳炎研究のデザイン要素の中でも、最も重要な物の一つが、個々の研究者が診断を下す際のAOMの定義である。AOM患児の臨床経過において、抗菌薬治療がどのようなインパクトを持つかを評価する研究で、AOMの定義が緩やかなもの(AOMというよりもOMEと診断されるような患児をも含む)であれば、プラセボ群が抗菌薬治療群と比べて、有意に良好な結果となることはないだろう。

入手可能なエビデンスを統合すると、臨床医は一定の条件に当てはまるAOM患児に対し初期治療として抗菌薬を用いず、対症療法のみで経過観察とするオプションを考慮すべきかもしれない。もし、「経過観察オプション」を使用するなら、臨床医は両親や保護者に対して診断の確実性を伝え、彼らの希望を取り入れる必要がある。初診時の抗菌薬治療により、5−14%の患児では有症状期間が1日短縮されるが、同時に5−10%の患児に一般的な抗菌薬の副作用が生じること、また、時に深刻な副作用が生じること、そして、薬剤耐性という逆効果があることを念頭に置くべきである。このオプションを考慮に入れる際に、子供を責任もって見守り、重症な疾患の徴候を理解し、改善が見られないときは医療機関に直ちに受診することの出来る大人がいることを、臨床医は確認しておく必要がある。小児を経過観察とした際、48-72時間で、疾患の増悪があるか、何の改善も見られない場合、抗菌薬治療の開始を考慮するべきである。もし、両親が診断の確実性について疑問が生じたときには、再診察が保証される必要がある。

初期治療として経過観察を行った患児をフォローする戦略には以下が含まれる。すなわち、48-72時間以内に疾患の増悪あるいは改善が全く見られない場合に、電話をした上で親が付き添って再診するか、または電話連絡をするか、また、48-72時間以内の再診予約、計画的な電話での確認、48-72時間以内の改善が見られない場合に用いるよう、事前に抗菌薬を処方するというセイフティネットを張ること、などである。臨床医は、報告してくれる両親や保護者が確保でき信頼できること、電話やFAXなどの事務機器を利用できること、医療機関や家族にかかる費用、家族の利便性を考慮し、治療に際して最適な戦略を適用すべきである。不適切な抗菌薬治療により、AOMが増悪する場合やAOM以外の状態を呈する潜在的な危険についても、念頭におかなければならない。

 

表5はAOMに対し、初診時の経過観察と抗菌薬治療の有効性に関するデータをまとめたものである。


 

5 初診時に抗菌薬治療を行うか、経過観察するかによるAOMの臨床経過比較

AOMの臨床経過

初診時抗菌薬治療

初診時経過観察

P

24時間以内の症状緩和

60

59

NS

2-3日以内の症状緩和

91

87

NS

4-7日以内の症状緩和

79

71

NS

7-14日以内の臨床的治癒

82

72

NS

疼痛期間、平均日数

2.8

3.3

NS

啼泣期間、平均日数

0.5

1.4

<.001

鎮痛薬使用、平均用量

2.3

4.1

.004

乳突洞炎か重篤な合併症の発症

0.59

0.17

NS

4-6週以内の遷延性中耳貯留液

45

48

NS

3ヶ月以内の遷延性中耳貯留液

21

26%

NS

抗菌薬による下痢か嘔吐

16

-

-

抗菌薬による発疹

2

 

 

AOMは急性中耳炎、MEEは中耳貯留液、NSは有意差なし

 

RECOMMNENDATION 3B (推奨 3B)

抗菌薬治療を行うと判断したら、臨床医はほとんどの患児にアモキシシリンを処方すべきである。(制限されたランダム化比較臨床試験に基づき、利得がリスクに勝っている推奨)

アモキシシリンを使用する場合には、用量は80−90mg/kg/dayとすべきである。(微生物学的研究や専門家の意見による推定に基づき、利得がリスクに勝っているオプション)

 

抗菌薬治療を行う場合に、臨床的に数多くの有効な治療法が報告されている。第一選択の治療(first-line treatment)は、常在細菌叢に対する影響も考えに入れ、臨床的に予測される効果に基づいて選択すべきである。ほとんどのAOM患児にアモキシシリンを第一選択薬として使用することの根拠は、安全性、低価格、受容可能な味、そして微生物学的スペクトラムが狭いことと同様に、感性あるいは中等度耐性肺炎球菌に対して適正な用量を用いると十分に有効であることである。

重症(中等度から重度の耳痛か39℃の発熱)の患者や、βラクタマーゼ陽性インフルエンザ菌およびモラキセラ・カタラーリスに対して、抗菌作用がのぞまれる患者では、高用量のアモキシシリン・クラブラン酸(アモキシシリンとして90 mg/kg/day、クラブラン酸として6.4 mg/kg/day)で治療を開始すべきである。この用量は、全てのβラクタマーゼ産生インフルエンザ菌とモラキセラ・カタラーリスを抑制するのに、十分なクラブラン酸カリウムを含んでいる。

AOMの治療における種々の抗菌薬の効果を比較する臨床試験では、初診時のAOMの診断や、フォローにおける改善と治癒に関する標準的な基準が定義されていないことが多い。種々の抗菌薬を用いたAOM治療の結果を測定する他の方法としては、細菌学的効果を評価するべきである。この細菌学的効果は、臨床効果と1対1の関係とはならないが、両者の間に一定の一致が認められる。細菌学的治癒を得た患児は、細菌学的不成功に終わった患児に比べて、より早期に症状が改善することが多い。Carlinらは臨床的効果と細菌学的効果の間に86%の一致があることを示している。Daganらは、第10病日までの臨床的不成功のうち、91%が第4-5病日において培養陽性であることを示した。もし、我々が細菌学的治癒を臨床的効果の代わりに用いるなら、中耳貯留液の中から病原体を除菌できるだけの抗菌薬濃度を達成できる薬が、よりのぞましい選択であるという強い根拠がある。

AOMにおける主要な起炎菌は、肺炎球菌、無莢膜型インフルエンザ菌、モラキセラ・カタラーリスであることが多くの研究で示されている。肺炎球菌は約25−50%、インフルエンザ菌は15−30%、モラキセラ・カタラーリスは約3−20%、の割合でAOM患児の中耳貯留液から検出されている。

7価肺炎球菌ワクチンの一般的な使用により、AOMにおける細菌学が変化していることが報告されている。Blockらは、1992年から1998年までと2000年から2003年にかけて、7-24ヶ月のAOM患児からの分離菌のうち、インフルエンザ菌が39%から52%に増加し、肺炎球菌が49%から34%に減少したと報告している。呼吸器合胞体ウイルス(RSウイルス)、ライノウイルス、コロナウイルス、パラインフルエンザウイルス、アデノウイルスそして、エンテロウイルスといったウイルスは、40−75%のAOM例の気道分泌物内や、中耳貯留液内のどちらかもしくは両方に見られ、また細菌がみられない中耳貯留液の5−22%に検出される。抗菌薬の明らかな「失敗例」の多くは、このウイルスが原因となっている可能性がある。約16−25%のAOM例では中耳貯留液内に菌体もウイルスも全く検出されなかった。

現在のところ、上気道から採取された約50%のインフルエンザ菌分離株と、100%のモラキセラ・カタラーリス分離株は、全国的にβラクタマーゼ陽性である可能性がある。また、15−50%(平均30%)の上気道分離肺炎球菌は、ペニシリン感受性が低下しており、そのうち約50%がペニシリン高度耐性(MIC=2.0µg/mL)であり、残りの半分も中等度耐性(MIC=0.1–1.0µg/mL)である。肺炎球菌分離株のペニシリン耐性機構は、βラクタマーゼ産生と関係がなく、むしろ、ペニシリン結合蛋白PBPの変性によるとされている。この薬剤耐性率は地域によりかなり異なっているが、ペニシリン系とセファロスポリン系薬剤への薬剤耐性をもたらす。

 

AOM患者に対する初期の研究では、抗菌薬治療をうけていない子供において、最初の鼓室穿刺術後の培養で、肺炎球菌の検出された症例の19%と、インフルエンザ菌の検出された症例の48%では、2-7日後の2回目の鼓室穿刺術で細菌が検出されなかった報告されている。モラキセラ・カタラーリスに感染した子供の約75%は細菌学的治癒となると推測されているが、これは、感受性の無いと考えられる抗菌薬(アモキシシリン)治療をした後でも寛解している事実に基づいている。ペニシリン高度耐性肺炎球菌はアモキシシリンの従来の用量には反応しない。したがって、耐性肺炎球菌を起炎菌とする多く症例、すなわちAOM患児の約80%は、高用量アモキシシリン療法が奏功すると考えられる。より高用量であれば、中等度耐性肺炎球菌のすべてと、多くの高度耐性肺炎球菌のMICを超え、中耳貯留液を改善することができると考えられる。アモキシシリン耐性菌の出現する可能性を示す危険因子は、保育所への通園と、30日以内の抗菌薬使用歴、そして2歳以下である。

患者がアモキシシリンにアレルギーがあり、そのアレルギー反応が1型の過敏性反応(じんましんやアナフィラキシー)でなかったら、セフジニル(セフゾン®)(14 mg/kg/dayを分1か分2)、セフポドキシム(バナン®)(10 mg/kg/day分1)、セフロキシム(オラセフ®)(30 mg/kg/day分2)を用いる。1型反応の場合、まったく異なる系統の抗菌薬を用いるべきで、アジスロマイシン(ジスロマック®)(10mg/kg/day を第1病日に、5mg/kg/dayを4日間それぞれ分1で)か、クラリスロマイシン(クラリス®、クラリシッド® )(15 mg/kg/day分2)が使える。他の可能性として、エリスロマイシン・スルフイソキサゾール (エリスロマイシンとして50 mg/kg/day)か、スルファメトキサゾール・トリメトプリム(バクタ®)(トリメトプリムとして6–10 mg/kg/day)を用いる。ペニシリン耐性肺炎球菌によるとわかっているか、推定される急性中耳炎患児で、ペニシリンアレルギーの患者には、クリンダマイシン(ダラシン®)30-40mg/kg/dayを分3で使用する治療がある。嘔吐があるか、そうでなくとも経口薬が耐えられない患者には対し、非経口のセフトリアキソン(ロセフィン®)(50 mg/kg)がAOMの初期治療として有用性が示されている。

AOM患者の望ましい治療期間については、確かな情報はない。標準的な治療期間(10日)を短期間治療(1-7日)と比べた研究では、不適切なサンプル量(そのため、統計的信頼度が低いか制限される)による制限を受ける。不適切なサンプル量として、2歳以下をほとんどか、まったく含まない、反復性中耳炎患児の除外、AOMの診断、改善あるいは治癒に関する標準化された厳格な基準が存在しない、一般的な中耳炎起炎菌に対する適切で効果的な抗菌薬治療が行われていない、治療薬の用量が推奨されているよりも少ない、年齢による結果の分析が欠けている、などが含まれる。当然、これらの研究結果は、ばらつきがある。より最近行われた研究では、治療期間の問題に特化して報告がなされている。2歳以下の小児に対しては、標準的な10日間の治療期間を選択するが重要であり、この治療期間は2-5歳の子供にとっても効果が高いといえる。さらに重症患児に対しては標準的な10日間の治療が推奨され、軽度から中等度疾患の6歳以上の患児には、5-7日間治療が適当である。

RECOMMENDATION 4(推奨4)

48時間から72時間以内に選択した初期治療の効果がないと判明すれば、医師はまず診断がAOMであるかどうかを再評価し、他の原因の除外診断を行わねばならない。

最初に経過観察を選択していた患児がAOMと確定診断できた場合には、抗菌薬治療を開始すべきである。すでに初期治療として抗菌薬を選択していた症例には、抗菌薬の変更をすべきである(推奨:観察研究に基づいており、利益がリスクより勝っている)

 

 AOMに対し抗菌薬が処方されると、臨床的に効果が現れるのに48時間から72時間を要する。多少の例外はあるが、治療における最初の24時間は、臨床症状を落ち着かせる為にあると言って良い。この24時間のうち最初は症状が幾分悪化することがある。次の24時間で、症状が改善し始めるであろう。もし最初発熱があっても、48時間から72時間後には下熱すると考えられる。同時に易刺激性の状態も改善し、睡眠や食事などの日常生活も普段と変わらなくなり始める。もし48時間から72時間以内に症状の改善がなければ、他に別の疾患が存在するか、選択した治療が適切でないかのいずれかである。もし初期治療に経過観察を選択し、48時間から72時間以内に自然軽快しなければ、罹病期間を引き延ばさないためにも抗菌薬治療を開始すべきである。

 

 また治療の変更を速やかに行うために、患者には初診時に、徴候や症状の持続あるいは悪化を、医師にいつどのように伝えるかを明確に指示しなければならない。

 

 経過観察後の無効例に対する抗菌薬選択あるいは第1選択抗菌薬治療は、もっとも可能性の高い病原菌に基づき、かつ臨床経験に基づいたエンピリック治療を行うべきである。最初に経過観察を行った症例であればアモキシシリン(パセトシン®、サワシリン®など)を80~90mg/kg/日にて開始する。重症例(中等度から高度の耳痛あるいは39℃の発熱)にはβ-lactamase産生インフルエンザ菌やモラキセラ・カタラーリスをもカバーしうる薬剤が望ましい。さらにアモキシシリンの効果が認められなかった症例には、高用量アモキシシリン・クラブラン酸(アモキシシリンとして90mg/kg/日、クラブラン酸として6.4mg/kg/日)(オーグメンチンES600®:本邦ではまだ販売されていない)の使用が望ましい。ペニシリンに対するT型以外のアレルギーの既往を持つ症例には、セフジニル(セフゾン®)、セフポドキシム(バナン®)、セフロキシム(オラセフ®:本邦では小児用は販売されていない)を使用する。T型アレルギーの症例には、アジスロマイシン(ジスロマック®)、クラリスロマイシン(クラリス®、クラリシッド®)、エリスロマイシン・スルフィソキサゾール(本邦では販売されていない)、スルファメトキサゾール・トリメトプリム(バクタ®)を使用する。嘔吐を伴う小児や、経口投与の出来ないような状況においてはセフトリアキソン(ロセフィン®)(50mg/kg/日)を3日間かけて、静脈投与あるいは筋肉内投与するのも良い。初期抗菌薬治療で無効であったAOMに対する治療としてセフトリアキソンを用いた場合、1日投与よりも3日間投与の方が良好な効果を示すことが証明されている。スルファメトキサゾール・トリメトプリム(バクタ®)やエリスロマイシン・スルフィソキサゾールは従来よりAOM治療における第1ないし第2選択薬として使用されてきたが、最近の肺炎球菌サーベイランスでは、肺炎球菌がこの2剤に高度耐性を有することが示されている。したがって、アモキシシリンで改善を得られなかった症例に対し、スルファメトキサゾール・トリメトプリムもエリスロマイシン・スルフィソキサゾールは第2選択薬としては適さない。

 

 アモキシシリン・クラブラン酸でも効果を示さなかった症例には、3日間のセフトリアキソン非経口投与(本邦では小児に対して静注のみが適応となっている)を行うと良い。他の経口抗菌薬に比し肺炎球菌に対する効果が優れているからである。AOMが遷延する場合には、細菌学的診断のために鼓膜穿刺を行うことを推奨する。鼓膜穿刺が施行できない場合、ペニシリン耐性肺炎球菌による急性中耳炎症例では上記の治療法でも有効でない場合が稀に存在するので、そのような症例にはクリンダマイシンの投与を検討するのも良い。それでもAOMの改善が得られない場合、有効な治療法を選択するために、鼓膜穿刺による貯留液のグラム染色、培養、抗菌薬感受性試験が不可欠となる。

 

 一旦症状の改善が見られれば、通常のAOMの臨床経過に基づいて経過観察を行う。急性期症状の改善後に起こる持続性の中耳貯留液(Persistent MEE:遷延化貯留液)は、良く見られるものであり、積極的治療の対象とはならない。AOM罹患より2週間後では、60%から70%の小児に中耳貯留液が見られ、1ヵ月後には40%、3ヵ月後には10%から25%にまで減少する。滲出性中耳炎(OME)はAOMと臨床的に区別されねばならないし、引き続き経過観察が必要であるが、抗菌薬治療は不要となる。精神発達遅滞を有する小児には、中耳貯留液による一時的な聴力低下が発達に悪影響を及ぼす恐れがあるため、OMEの治癒を確認することは特に重要である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

表6 初期抗菌薬治療、経過観察48-72時間後失敗例、初期抗菌薬失敗例に対する抗菌薬選択

39℃以上の発熱および/または高度の耳痛

初期抗菌薬治療

経過観察48-72時間後失敗例

初期抗菌薬治療失敗例

 

推奨

ペニシリンアレルギー

推奨

ペニシリンアレルギー

推奨

ペニシリンアレルギー

なし

アモキシシリン

80-90mg/kg/day

非I型:
セフジニール、セフポドキシム、セフロキシム

I型:

アジスロマイシン

クラリスロマイシン

アモキシシリン

80-90mg/kg/day

非I型:
セフジニール、セフポドキシム、セフロキシム

I型:

アジスロマイシン

クラリスロマイシン

アモキシシリンークラブロン酸(90mg/kg/day

+6.4mg/kg/day)

非I型:セフトリアキソン3日間

I型:クリンダマイシン

あり

アモキシシリンークラブロン酸(90mg/kg/day

+6.4mg/kg/day)

セフトリアキソン1日又は3日間

アモキシシリンークラブロン酸(90mg/kg/day

+6.4mg/kg/day)

セフトリアキソン1日又は3日間

セフトリアキソン3日間

鼓膜穿刺、

クリンダマイシン

 

RECOMMENDATION 5 (推奨5)

医師はrisk factorを減少させることでAOMの予防に努めるべきである(推奨:信頼性の高い観察研究に基づき、利益がリスクより勝っている)

 

 早期あるいは反復性の中耳炎に関係する要因の中には、変化しない普遍的なものがある。例えば、遺伝的傾向、未熟児、男性、ネィティブ・アメリカンあるいはイヌイット、反復性中耳炎の家族歴、同居する同胞の存在や貧困階級者といったものである。

 

乳幼児期に保育園への参加形態を変えることで、気道感染の発生を減らし、反復性中耳炎の発生率をも著明に減少させることが可能である。また少なくとも生後6ヶ月までは母乳栄養を行うことで、低年齢からのAOMの罹患を防ぐ手助けとなると考えられる。仰向けでミルクを与えないこと(“bottle propping)、6ヶ月を過ぎてのおしゃぶりの使用を控えさせるかやめさせること、タバコの煙に曝露されすぎないことが、幼児期におけるAOMの罹患を減少させるのに必要な事項である。しかしこれらの事項における有効率は不明である。

 

 殺菌または弱毒化したインフルエンザワクチンの経鼻投与による免疫学的予防法は、気道感染症の流行時期においてAOMの罹患率を30%以上も減少させ、AOMの予防に効果をもたらしている。ただしこの研究の対象患児のほとんどは2歳以上であり、6ヶ月から23ヶ月までの乳幼児を対象とした対照研究では、殺菌ワクチンにてAOMの予防効果を全く証明できなかった。肺炎球菌ワクチンは、ワクチンと同じ血清型の肺炎球菌による中耳炎の予防には効果を示すことが証明されているが、全体としての有効性はわずかで、AOMの罹患率を6%下げるのみにすぎない。肺炎球菌ワクチンの導入後の大規模臨床試験において、中耳炎での医療機関受診率が7.8%、抗菌薬処方が5.7%減少した。RSウイルス、パラインフルエンザウイルス、そしてアデノウイルスに対するワクチンが現在開発中で、中耳感染の予防に更なる期待が持てる。

 

RECOMMENDATION 6 (推奨6)

AOMの治療における補足的、代替的治療(CAM)(十分なデータが存在せず、さらに意見の一致をみていないため、推奨されない)

 

 子供に対し、様々な種類の民間療法を用いる親や保護者が増加している。用いられる療法の種類は民族背景によるか、家族の信仰内容によるか、ある特定の社会で行われているような代替医療が利用できるかによって異なる。中耳炎に用いられる療法には、ホメオパシー、鍼灸、薬草治療、カイロプラクティック、栄養補助食品がある。多くの医師が両親、保護者、または年長児に、健康維持や特定の状態を改善させるような薬品やサプリメントや他のものを服用していないかどうか質問するが、親や保護者は医師にそのような代替療法を用いていることを伝えたがらないことが多い。多くの療法は無害であるが、なかにはそうでないものもある。本来の治療に直接危険な影響を及ぼすものもあれば、治療効果に相互作用を及ぼすものもある。医師はそのような代替療法についての知識をより多く得て、それらが使用されているか否かを尋ね、それが起こしうる利益と危険性について論じることができるようにならねばならない。

 

 現在のところAOMに用いられる代替療法が有用であると結論付けた研究はない。最近の代替療法の使用についての関心の高まりにより、その有効性を検討するために基礎的な研究が行われるようになってきた。代替療法は独特の治療形態であるがゆえに、それに対する研究をデザインし、遂行するのは難しい。今行われているどんな研究でも、AOMの自然経過と比較した場合、ある一定の治療が効果を有するという証拠を示さねばならないだろう。代替療法に関する結論はエビデンスが得られない限りは出すことができない。

 

将来の研究

 AOMに関しては莫大な文献数にも関わらず、日常臨床に頻繁に遭遇するAOMの正確な診断と最も効果的な治療法を明確にするために、将来的に研究を続ける余地がまだまだ残されている。将来の研究では、AOMに関する多くの研究における質と妥当性について言及することが最も重要となる。また将来の研究では以下の点に留意せねばならない;診断、結果、重症度について標準化した基準を用いること、検討症例数を増加させること、すなわち従来の症例数では少なすぎるために、わずかではあるが重要な意味を持つような臨床効果の差を把握するには限界があった、2歳以下と12歳以上の小児も対象に含むこと、薬剤の用量は、病原菌を十分治療しうるレベルで中耳腔に到達することが証明されている量を用いること、結果を年齢別と重症度別に分けることである。加えて限られた地域で行われた研究は、普遍性を確認する目的で、他の地域でも再現性がなければならない。

以下のような研究が今後必要と考えられる;

l         AOMの標準的定義のさらなる検証

l         中耳貯留液の客観的診断のための新たな、あるいは改良された診断テクノロジー

l         医師の診断技術を向上させるための教育プログラムの効果

l         点耳や代替療法を含めた疼痛への対処法と、疼痛管理の観点から見た鼓膜穿刺・切開の役割に関する更なる研究

l         “経過観察”という治療選択の利点と欠点を、抗菌薬使用、細菌の耐性化、有害事象の発現、聴力への長期的な影響、中耳貯留液の持続、そして両親、患児、医師の満足度といった観点から捉えた大規模試験

l         中耳炎を引き起こすような細菌の耐性パターンの予測される変化を捉えた新しい抗生物質の持続的な開発(新薬に関する研究は、従来の薬剤と同等か、それ以上の臨床効果があるかを示すためには適切に計画され、十分な症例数を確保せねばならない。)

l         全ての年齢層における治療期間に関する無作為比較試験

l         AOMを起こしうる微生物をさらに数多く対象としたワクチン研究

l         可能性のあるAOMの予防手段に関するさらなる研究

 

まとめ

 この臨床診療ガイドラインは、2ヶ月から12歳までの小児で、中耳とは関連のない全身的な疾患の徴候、症状を有さない患児における中耳炎の定義と治療法に関して、エビデンスに基づいた推奨を提唱したものである。このガイドラインでは正確な診断と、AOMの首尾一貫した定義に遵守することを強調している。AOMにおける疼痛の管理は治療における重要な側面であると言える。ある一定の中耳炎患児に対し、48時間から72時間対症療法を併用しながら経過観察するという治療選択はエビデンスに基づいたものであり、抗菌薬使用の減少につながっていくと考えられる。抗菌薬での治療を選択する場合には、多くの小児に対する第1選択薬剤として、アモキシシリン80-90mg/kg/日の投与が推奨される。アモキシシリンに代わる薬剤が適応である場合には、抗菌薬の選択に関するガイドラインを補足した。またAOMの予防やAOMの治療における代替療法の役割に関してもエビデンスの有無について検証した。推奨項目を図1に総括する。

 

結論

1.急性中耳炎の診断のためには、医師は急性発症であることを確認し、中耳貯留液の所見を同定し、中耳の炎症を示す所見や症状の有無を評価せねばならない。(推奨)

 

2.AOMの治療には疼痛の評価も含まれる。疼痛があれば、医師は疼痛を軽減させる治療を勧めねばならない。(強い推奨)

 

A.合併症を伴わないAOMの小児に抗菌薬を使用せず経過観察することは、診断の確か

  さ、年齢、重症度、定期通院が確実か、に基づいて選択され選択肢である。(オプション)

 

B.抗菌薬治療を選択した場合、多くの小児にアモキシシリンから処方すべきである。

(推奨)

  アモキシシリンの用量は80-90mg/kg/日が妥当である。(オプション)

 

4.48時間から72時間以内で初期治療に効果が認められない場合、医師はAOMであるかどうかの再評価を行い、他の疾患を除外せねばならない。初期経過観察を選択した症例でAOMの診断が確実であれば、抗菌薬治療を開始すべきである。最初に抗菌薬で治療を行った症例であれば、抗菌薬の変更を行うべきである。(推奨)

 

5.医師はリスクファクターを減少させることによって、AOMの予防に努めねばならない。

 (推奨)

 

6.AOMに関する補足的、代替的治療(CAM)の使用に関して推奨しうるエビデンスはない。(推奨しない)

 

このガイドラインにおける推奨は治療の完全指針でも医療の標準を示すものでもない。個々の状況に応じたバリエーションがあってもよいのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

図1および図中注釈

 

急性中耳炎の診断

1)症状および徴候の急性発症

2)中耳貯留液の存在

3)中耳炎症の徴候と症状

 

 

重篤でない小児に対する抗菌薬治療または経過観察の選択

1)生後6ヶ月未満:抗菌薬治療

2)生後6ヶ月から2歳まで:診断確定例あるいは重症例には抗菌薬治療、診断不確定例あるいは軽症例には経過観察を行う

3)2歳以上:重症例には抗菌薬治療、診断確定例でも軽症な場合や診断不確定例には経過観察を行う

 

保護者は経過観察について十分に説明を受けて、それを了解していることが必要。

保護者は患児を十分に観察でき、もし悪化したら医師を受診できることが必要。

経過観察をする場合には、医師と十分に連絡を取れ、必要に応じて再診察や治療を受けることができるシステムが必要である。